ARDSへの早期デキサメタゾン投与で死亡率低下:DEXA-ARDS試験
ARDSは急性呼吸促迫症候群(きゅうせいこきゅうそくはくしょうこうぐん、Acute Respira-tory Distress Syndrome)の略語で、単一の病気ではなく、様々な原因によって生じる症候群です。2012年に発表された現在の定義では、(1)1週間以内の経過で急に発症している、(2)低酸素血症が明らかである、(3)胸部エックス線やCTスキャンで両肺に異常な影がある(図)、(4)心不全が原因ではない、とされています。誘因となる"基礎疾患"は、肺に直接ダメージを与えるものと、そうでないものとに分けられます。前者で頻度の高いものには、肺炎や胃内容物の誤嚥があり、後者の代表的なものは敗血症です。敗血症は、血液中に細菌そのものや細菌に由来する毒素などが入り、様々な臓器がダメージを受ける状態を指します。ARDSを起こした肺では、基礎疾患に伴って活性化した好中球(白血球の一種)から細胞や組織を傷つける活性酸素や蛋白分解酵素が放出されると考えられています。肺胞や毛細血管の細胞がダメージを受けた結果、血液中の水分や蛋白がにじみ出て、肺胞にひどい浮腫を起こします。
ARDSを伴うCOVID-19、デキサメタゾンが有効な可能性/JAMA
急性呼吸不全の治療は大きく分けると、酸素吸入や人工呼吸など呼吸を補助する治療と、呼吸不全を起こした元の病気に対する治療とに分けられます。酸素は生命の維持に不可欠なので酸素投与は必須となります。ただし、Ⅱ型呼吸不全の患者に大量の酸素投与を行うと呼吸が止まってしまうことがあるので、注意が必要です。
アサシス社は、欧米においてARDS患者に対するMultiStem®の安全性と有効性を探索する第Ⅰ/Ⅱ相試験を実施し、2019年1月にその結果速報を発表しました。当該試験により、ARDS患者に対するMultiStem®の安全性及び忍容性は良好であることが確認されました。また、プラセボ対照二重盲検試験として実施された第Ⅱa相試験では、死亡率、28日間のうち人工呼吸器を使用しなかった日数及び28日間のうちICU管理が不要であった日数、といった指標において、MultiStem®投与群に改善傾向が見られました。
ARDSに対するデキサメタゾンの効果 | 呼吸器ドクターNのブログ
ARDSの治療に関しては、呼吸管理を中心とする全身管理と薬物療法の2つに分けられます。低酸素血症を改善させるためには気管に入る空気に圧力をかける必要があるため、気管チューブやマスクを使った人工呼吸管理を行います。また敗血症や肺炎など原因となっている細菌感染症に対する抗菌薬療法や全身管理を行う目的での水分や栄養の管理を行います。薬物療法ですが、残念ながらARDS患者の生存率改善につながるような薬剤は現在まで知られていません。
急性呼吸不全の原因疾患には様々なものがありますが、肺炎や後述するARDS、急性肺血栓塞栓症、自然気胸などが代表的です。また慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎が感染や心不全などの合併を契機に急性増悪することもあります。
[PDF] ARDSに対するデキサメタゾンを用いた治療のRCT
当社は、アサシス社が創製した幹細胞製品MultiStem®(HLCM051)を用いた全世界での権利を保有し、新規の細胞治療法を開発しています。
この細胞治療法は、ARDSと診断された患者さんにHLCM051 を一定の時間内に静脈投与するものです。
ARDSを発症した患者さんに静脈投与されたHLCM051は、肺に集積して過剰炎症を抑制し、さらに損傷を受けた組織を保護し、修復を促進することで肺機能を改善すると考えられます。これらの作用により、人工呼吸器からの早期脱却、死亡率の低下などが期待されています。
急性呼吸窮迫症候群(きゅうせいこきゅうきゅうはくしょうこうぐん:Acute Respiratory Distress Syndrome(以下ARDS))とは、重症肺炎、敗血症や外傷などの様々な疾患が原因となり重度の呼吸不全となる症状の総称です。
重症肺炎、敗血症や外傷などによって、炎症性細胞が活性化され、肺の組織である肺胞や毛細血管に傷害を与えます。その結果、肺に水がたまり、重度の呼吸不全が引き起こされます。
ARDSは一般的に、原因となる疾患や外傷が発生してから24~48時間以内に発生すると言われています。また、発症後の死亡率は全体の30~58%※1とも言われており、極めて予後が悪い疾患です。
日本におけるARDS患者数は28,000人程度全世界では110万人超と推定されます※2。
急性呼吸窮迫症候群(ARDS) -原因、症状、診断、および治療については、MSDマニュアル-家庭版のこちらをご覧ください。
中等症以上のARDSにおいて早期から少量のデキサメタゾンを投与することで、人工呼吸器の日数、死亡率が改善したようです。
ARDSに対するステロイドの効果についてはまだ評価がさだまらないところです。
に対する多施設ランダム化コントロール試験を行った。
脳死、終末期、ステロイドや免疫抑制剤を使用している患者は除外した。
登録可能患者はランダムに、治療でバランスをとってただちにデキサメタゾン投与か通常の集中治療を受けるかに割り付けられた。
デキサメタゾン群はday1からday5までデキサメタゾン20mgを1日1回静注投与され、day6からday10までは10mg/日に減量された。
両群とも肺保護機械的人工呼吸で換気された。
重症COVID-19へのステロイドはDX?mPSL?集中治療医に聞く
【Implication】
本研究では中等症〜重症のARDSに対してデキサメタゾンの有効性が示された。
大規模RCTで、最新のARDS治療を取り入れデキサメタゾンを初めて用いたことは評価できるが、研究デザインを考慮すると効果の期待できる適応症例は限られる。また死亡率はSecondary outcomeであり、今後の追試での評価が期待される。
当院ICUではさらなる追試を待って導入を検討する。
[PDF] COVID-19肺炎に対する 量デキサメタゾンの治療効果
【著者の結論】
中等度から重症のARDS 患者に対して、早期にデキサメタゾンを投与することで、人工呼吸器の離脱期間を早め、全死亡率を減らす可能性がある。
ARDSに対する標準的な管理は肺保護換気 (TV 4-8ml/kg, プラトー圧 < 30)
筋弛緩薬、鎮静、腹臥位、リクルートメント手技は担当医の判断で施行
常に抜管できないかARDS net protocolのSBTに基づいて評価し、満たしたら特に理由がない限りすぐに抜管を試みた。
重症COVID-19にデキサメタゾンで人工呼吸器離脱期間増加
I: 従来の治療に加えデキサメタゾンを投与した群
C: 従来の治療群
O: 人工呼吸器離脱期間
[PDF] デキサメタゾン COVID-19 小児患者に対する治療薬としての位置付け
Implication
本研究は一ヶ国ではあるが、多施設のICUを舞台としたランダム化比較試験であることや、ARDSに対する治療が実臨床に即している点は内的外的ともに妥当性を高めている。一方でデキサメタゾンの投与という盲検化した研究デザインを組めるにも関わらず、明確な理由なくオープンラベルで行っていることは情報バイアスが懸念され、計画されたサンプルサイズへ到達する前に試験が中止された明確な基準や説明もなされていないことは治療効果が過剰に報告されている可能性が考えられる。さらにステロイドの治療効果を調べる研究であるにも関わらず、適格患者の約1/4がランダム化前に初療医の判断でステロイドを投与され、分析から除外されており、選択バイアスが懸念される。実際に適格患者の27%しか登録できておらず、ARDSの患者の多くに一般化することができない。
以上から、本研究結果をもって、ARDSに対するデキサメタゾンのルーチン使用を推奨するまでには至らないと考える。しかしながら、現時点で十分なエビデンスがある特定の薬理学的治療のないARDSに対して、RCTならびにITT解析という交絡因子が少ない手法を用いた研究でステロイドの有効性を示したことは意義が大きい。今後の追試やsystematic reviewに期待したい。
1)COVID-19 に伴う致死的な急性呼吸窮迫症候群(ARDS: Acute Respiratory Distress ..
【仮説/目的】
中等症から重症のARDS患者にデキサメタゾンを早期投与すると、人工呼吸期間と全死亡率を減らす。
Dexamethasone treatment for the acute respiratory distress syndrome
doi: 10.1016/S2213-2600(19)30417-5.
スペインの他施設ICUでのRCTです。
Limitationにもありますが、Studyです。
基礎にやがあったり、いたり、があると除外されています。
また、が対象ですので、注意が必要です。
意訳している部分が多いので、間違いがありましたらご指摘ください。
Introduction
・ARDSの推奨治療
Methods
・スペインでの他施設のRCT(17 ICUs)
- 18歳以上
- 挿管・人工呼吸管理
●胸部画像で両肺に浸潤影
●心不全が無い・肺動脈楔入圧<18 mm Hg
●低酸素血症:PEEP≧5cmH2OでPaO2/FiO2≦200
- 妊婦・授乳中
- 脳死
- 基礎疾患の終末期
- DNARの患者
- ステロイド・免疫抑制剤使用中
- 他の臨床試験がなされている
- 重症の肺疾患が基礎にある(COPDなど)
- うっ血性心不全
・ARDS発症日の定義
- 患者が最初にmoderate-to-severe ARDSの基準を満たした日