[PDF] COVID-19に対する薬物治療の考え方 第14版


バリシチニブ(Baricitinib)は、関節リウマチに対する治療薬として、2017年よりオルミエント ®という名前で日本国内でも市販されていた飲み薬です。
体内で炎症が起こると、サイトカインという細胞間の情報伝達を行うタンパク質がリンパ球などから放出され、これが様々な細胞の表面にある受容体というタンパク質に結合することで、細胞の中に炎症のシグナルが伝わります。
バリシチニブは、受容体から細胞の中に信号を伝える際に必要な、ヤヌスキナーゼ(JAK)という酵素を阻害することで、サイトカインによって細胞で炎症が起こることを抑える働きを持っています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を重症化させる、いわゆるサイトカイン・ストームに対して有効な薬剤として、米国では昨年11月より抗ウイルス薬レムデシビルとの併用治療が緊急使用許可されていました。
日本では、イーライ・リリー社によって昨年12月にCOVID-19の治療薬として承認申請が行われ、4月21日の厚生労働省の審議会で承認されました。
COVID-19の治療薬としては、レムデシビル、デキサメタゾンに続く3剤目となります。
今回は、承認の決め手となったと思われる、国際二重盲検試験(ACTT-2)の成績を報告した論文を読み解いてみたいと思います。
論文が掲載されたのは、The NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINE 誌の2020年12月11日号です。

原文(英語)や図表は、下のリンクからお読みいただけます
Baricitinib plus Remdesivir for Hospitalized Adults with Covid-19


軽症肺炎例を対象にしたレムデシビル5日投与群、レムデシビル10日投与群、標準治療群 ..

新型コロナウイルス感染症治療薬の開発や承認審査が加速しています。特に注目されているのが、新型コロナ治療薬として承認された「レムデシビル」と「デキサメタゾン」です。

レムデシビルやデキサメタゾン以外の薬剤についても治験が進められ、いくつかの治療薬の選択肢が挙げられてきているところです。

[PDF] COVID-19 の薬物治療ガイドライン version 4 1

2019年末に中国で確認後、急速に全世界に拡散した新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2:SARS-CoV-2)は、今日に到るまで1億7000万人が感染し350万人が死に到る歴史に残るパンデミックとなっている。このSARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)の治療法開発には多くの研究者と企業が総力をあげてこの一年取り組んできた。抗ウイルス活性が示唆される既存薬のrepositioningの試行に加え、重症例での病態への関与が示唆される過剰免疫の抑制についても各種抗炎症薬の効果を検証する臨床試験が実施されている。しかし、2021年4月時点、本邦でCOVID-19治療薬として承認されているものは、抗ウイルス薬のレムデシビルと、抗炎症薬であるデキサメタゾン、バリシチニブの3剤のみである。

ニュースなどで多くの方がご存じかと思いますが、たとえ新型コロナウイルス感染症を発病しても、ほとんどの患者さんは風邪のような症状をへて軽症のまま治ってしまいます。
しかし、一部の患者さんでは重症化して酸素吸入が必要になったり、更に悪化して人工呼吸器やECMOで生命を維持する治療が必要になったり、最悪の場合亡くなってしまったりします。
このような重症化が起こるメカニズムとしては、ウイルスの感染をきっかけに免疫システムが、いわゆる「サイトカイン・ストーム」を起こし、制御不能な炎症が肺を始めとした臓器に生じてしまうという説が有力です。
このため、新型コロナウイルス感染症の治療としては、①発症早期にはウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬を、②サイトカイン・ストームで重症化した場合には炎症を制御する薬剤を、という二段構えの戦略が必要になります。
新型コロナウイルス感染症に対する治療薬として国内承認された薬剤のうち、昨年5月に承認されたレムデシビル(ベクルリー®)は①の働きを持つ薬であり、昨年7月に承認されたデキサメタゾンは②の働きを持つ薬剤でした。
今回国内承認されたバリシチニブ(オルミエント ®)は②の働きを持つ薬剤ですが、デキサメタゾンと比較してどちらが有効性・安全性で優れているかは今の所わかっていません。
米国の疾病対策予防センター(CDC)のガイドラインでは、②の薬剤としてはデキサメタゾンを優先し、副作用の問題(高血糖など)でステロイドホルモンが使用できない症例では、バリシチニブの投与を検討するように記載されているようです。
一方、日本国内では、昨年末あたりからバリシチニブの保険適応外での使用が認められ、重症のコロナウイルス感染症の患者さんに投与が開始されていましたが、
①肺炎の陰影がCTスキャンで確認され、酸素飽和度が低下し始めるとレムデシビルの投与を開始
②悪化して酸素吸入が必要な状態になると、レムデシビルにデキサメタゾンを追加
③デキサメタゾン投与でもさらに悪化すると、上記2剤にバリシチニブを追加
という形で、デキサメタゾンとバリシチニブのどちらかを選択するというよりは、両剤を併用する医療機関が多いようです。
どちらが治療戦略として最適なのか、明らかになるにはしばらく時間が必要かもしれません。
近々改定されるであろう、厚生労働省の「COVID-19診療の手引き」では、本剤がどのような位置づけで記載されるのか興味があるところです。
第4波の到来による医療機関の逼迫が毎日のように報道されている今日このごろですが、バリシチニブの正式承認によって、投与する医療機関が増加→重症患者のICU滞在日数が短縮→重症病床の逼迫状態が改善、という流れが多少なりとも生じることを期待したいと思います。

デキサメタゾン(1 回 6mg 1 日 1 回 10 日間)を投与する。レムデシビルは、原則使用しない。迅

日本でコロナウイルスの治療として承認されているのはレムデシビル、デキサメタゾン、バリシチニブ、抗体カクテル療法の4つです。

厚労省は、抗炎症薬「デキサメタゾン」を新型コロナウイルスの治療薬として認定した。
デキサメタゾンは、17日付で厚労省が出している医療関係者向けの治療の手引きに掲載されている。新型コロナ治療薬の承認例は、5月に特例承認された「レムデシビル」に続き、2例目となる。

[PDF] COVID-19中等症Ⅱに対するレムデシビル,デキサメタゾン

厚労省が承認すれば、新型コロナウイルスの治療薬として承認されている「レムデシビル」、「デキサメタゾン」に続いて三つ目の治療薬となる。

各薬剤の解説デルタ流行期に行われた二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験(EPIC-HR)で、発症5日以内にニルマトレルビル/リトナビルを投与開始することによって、18歳以上のワクチン未接種の重症化高リスク患者(軽症~中等症)の28日以内の入院または死亡が、88%減少(治療群0.8% vs プラセボ群6.3%)することが示された[19]。この臨床試験では、約50%が既感染者(ヌクレオカプシド蛋白に対するIgGが陽性)であったが、サブグループ解析では、既感染者の場合でも入院または死亡抑制効果が確認された(治療群0.2% vs プラセボ群1.5%)。また、治療開始5日目のウイルス量(鼻咽頭ぬぐい液)は有意にニルマトレルビル/リトナビル投与群で低く、投与することによって感染伝播が抑制される可能性が示唆された。文献化はされていないが、ファイザー社の資料によると、重症化標準リスク群(重症化リスク因子のあるワクチン接種者、または、重症化リスク因子のないワクチン非接種者)を対象とした二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験(EPIC-SR)の中間解析では、症状の改善は早まらなかったが、28日以内の入院または死亡は減少する傾向が確認され(投与群0.7% vs プラセボ群2.35%、統計学的有意差なし)、治療開始5日目のウイルス量は投与群で有意に低かった[20]。投与量は、eGFR 60 mL/分以上の場合、1回ニルマトレルビル300mgとリトナビル100mgを1日2回、5日間である。eGFR 30~60 mL/分の場合は減量が必要で、ニルマトレルビルの1回投与量を150mgに減量する。eGFR30 mL/分未満の場合は使用できない。ニルマトレルビル/リトナビルの最大の欠点は、薬物相互作用のために併用できない薬剤が非常に多いことである。詳細は、添付文書や国立国際医療研究センター病院の「パキロビッド®パックとの併用に慎重になるべき薬剤リスト」[21]を参照するとよい。「Lexicomp® Drug Interactions」も有用である。よく使用されている併用禁忌薬には、アゼルニジピン、アミオダロン、リバーロキサバン、ジアゼパム、トリアゾラム、ボリコナゾール、カルバマゼピン、フェニトイン、リファンピシンなどが挙げられる。禁忌とはなっていないが、状況により併用を控えたほうがよい併用注意薬としては、クラリスロマイシン、コルヒチン、クエチアピン、カルシウム拮抗薬、アトルバスタチン、ワルファリン、シクロスポリン、タクロリムス、バルプロ酸ナトリウム、ラモトリギン、トラゾドンなどが挙げられる。特に、高血圧・不整脈の既往がある場合や、抗けいれん薬、抗不安薬・睡眠薬、免疫抑制薬を使用中の場合は、必ず薬物相互作用を確認することが重要である。また、2022年4月時点では、流通制限があること(各医療機関のストックは約5回分である)、処方できる医療機関が限定されていたこと(病院または有床診療所に限定)から、処方したくても処方できない医療機関(特に多くの患者を診断している無床診療所)は非常に多かったと思われる[22]。2022年4月22日の厚生労働省の事務連絡で、無床診療所での院外処方が可能となったため、流通制限は継続中ではあるが、今後、処方量の増加が期待される。従来株~アルファ流行期に行われた二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験(PINETREE)で、発症7日以内にレムデシビルを投与開始ことによって、12歳以上のワクチン未接種の重症化高リスク患者(軽症~中等症)の28日以内の入院または死亡が、87%減少(治療群0.7% vs プラセボ群5.3%)することが示された[23]。ただし、ニルマトレルビル/リトナビルと異なり、治療開始7日目のウイルス量(鼻咽頭ぬぐい液)は、レムデシビル投与群とプラセボ群で同等であったため、投薬による感染伝播性の低下は期待できないのかもしれない。臨床試験は、eGFR 30 mL/分未満の患者を除外して行われているため、重度の腎障害のある患者に対するレムデシビルの効果を明確に示した質の高いエビデンスは筆者の知る限り存在しない。ただし、レムデシビルのPK/PDを検討した研究から、非透析患者であれば、初日200mg、2日目100mgを投与すれば、3日間以上の十分な血中濃度が期待できる[24]。そのため、eGFR 30 mL/分未満の非透析患者の場合、副作用に注意しながら、2回投与を試してもよいと考える。透析患者の場合は、透析4時間前に100mgを投与し、それをもう1回行えば、3日間以上の十分な血中濃度が期待できる[25](表6)。レムデシビルの副作用は、肝障害、腎障害、徐脈[26, 27]などが報告されている。製剤内にシクロデキストリンが含まれているため、腎不全患者に対して使用を控えたほうがよいとする意見もあるが[28]、安全に使用可能とする報告もある[29]。表6 腎不全患者におけるレムデシビルの投与量主にデルタ流行期に行われた二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験で、発症5日以内にモルヌピラビルを投与開始することによって、18歳以上のワクチン未接種の重症化高リスク患者(軽症~中等症)の29日以内の入院または死亡が、約30%減少(治療群6.8% vs プラセボ群9.7%)することが示された[30]。ニルマトレルビル/リトナビルやレムデシビルと直接効果を比較した臨床試験はないが、プラセボ群との効果の差が他の薬剤より小さいため(モルヌピラビル 約30% vs 他の薬剤 約80%)、各ガイドラインでは、他の薬剤よりも推奨度が低くなっている。また、サブグループ解析ではあるが、既感染者(SARS-CoV-2 IgG陽性者)に対して入院または死亡抑制効果を認めなかったことに注意が必要である(治療群 3.8% vs プラセボ群 1.7%)。ワクチン接種者への効果は検討されていないが、既感染者に対して無効であることから、ワクチン接種者に対する効果もそれほど期待できないことが予想される。モルヌピラビルは、18歳未満の小児・青年期に対して臨床試験は行われておらず、現時点で投与適応はない。また、突然変異誘発・催奇形性が懸念されるため、妊婦への投与は禁忌である。妊娠可能年齢の女性は、使用中と使用終了後4日間は避妊が必要である。また、授乳中の女性も、使用中と使用終了後4日間は授乳を中断することが推奨されている。腎機能と肝機能に基づく投与量調整は不要であり、その点では使用しやすい薬剤である。一方で、カプセルが大きく特に高齢者では内服しにくい可能性がある。また、他の薬剤と同様に流通制限があるため、自施設の在庫を確認しながら、診療を行う必要がある。従来株~アルファ流行期に行われた二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験で、発症5日以内にソトロビマブ(500mg 単回静注)を投与することによって、18歳以上のワクチン未接種の重症化高リスク患者(軽症~中等症)の29日以内の入院または死亡が、約80%減少(治療群 1% vs プラセボ群 6~7%)することが示された[31, 32]。また、治療開始7日目のウイルス量は有意にソトロビマブ投与群で低く、投与することによって感染伝播が抑制される可能性が示唆された。オミクロンBA.1系統に対する中和活性が維持されていたため、第6波で多くの患者に使用された。 また、他の薬剤と比較して禁忌が少なく、妊婦や腎不全患者(透析患者も含む)に対して安全に使用可能であり、利便性が高い薬剤であった。しかし、2022年3月中旬以降に増加傾向となったオミクロンBA.2系統に対する中和活性の低下が示されたことから、2022年4月現在はその使用は推奨されなくなった。BA.1とBA.2を識別可能な変異PCR検出系を導入している病院では、BA.1であることが判明している患者に限り、ソトロビマブの投与が検討できる。以前は、抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体投与後のCOVID-19ワクチン接種は、90日以上の間隔をあけることが推奨されていた。しかし、(ソトロビマブとは異なる)抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体(bamlanivimab)投与後のCOVID-19ワクチン効果を検討した研究では、投与からワクチン接種までの期間が、64日以内、65-84日、85日以上、の場合で、免疫学的効果(IgG値で評価)の差が認められなかった[33]。そのため、現在では、モノクローナル抗体の投与の時期に関係なく、COVID-19ワクチンの接種は可能であると考えられている。なお、日本のCOVID-19ワクチン・モノクローナル抗体の添付文書には、これらの投与間隔についての記載はない。アルファ流行前に行われた二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験で、発症7日以内にカシリビマブ/イムデビマブ(600mg/600mg 単回静注)を投与することによって、18歳以上のワクチン未接種の重症化高リスク患者(軽症~中等症)の28日以内の入院または死亡が、70%減少(治療群 1.0% vs プラセボ群 3.2%)することが示された[34]。サブグループ解析では、既感染者(N蛋白とS蛋白に対するIgGが陽性)でも入院または死亡予防効果を認めた。また、治療開始7日目のウイルス量は有意にカシリビマブ/イムデビマブ投与群で低く、投与することによって感染伝播が抑制される可能性が示唆された。infusion reactionは0.3%未満であり、安全性は高い。また、アルファ流行前に行われた家庭内曝露後96時間以内の18歳以上の濃厚接触者(SARS-CoV-2 PCR検査陰性)に対するカシリビマブ/イムデビマブ皮下注(600mg/600mg)のCOVID-19発症予防効果を検討したプラセボ対照無作為化比較試験では、81.4%の発症予防効果(予防投与群 1.5% vs プラセボ群7.8%)と、66.4%の無症候性感染も含む感染予防効果(予防投与群4.8% vs プラセボ群 14.2%)が示された[35]。さらに、index caseの陽性検体が採取されてから96時間以内の無症状病原体保有者(SARS-CoV-2 PCR検査陽性の症状のない感染者)に対するカシリビマブ/イムデビマブ皮下注(600mg/600mg)による症候性感染予防効果を検討したプラセボ対照無作為化比較試験では、46%の予防効果が示された(予防投与群 29.0% vs プラセボ群42.3%)[36]。ブレイクスルー感染(COVID-19ワクチン接種者に発症したCOVID-19)での抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体の効果を検討した無作為化比較試験は筆者の知る限り存在しないが、入院予防効果を検討した観察研究は報告されている。アルファ~デルタ流行期に検討されたものであるが、モノクローナル抗体(おもにカシリビマブ/イムデビマブが使用された)投与群は、非投与群より77%入院が少なく、呼吸不全は86%少なかった[37]。この研究から、ワクチン接種済みのCOVID-19患者の場合でも、抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体の効果は期待できると考えられる。デルタ流行期は多くの患者に投与されたが、オミクロンに対する中和活性が著明に低下しているため、オミクロン流行後は使用されなくなった。重症化予防効果の有無を検討されてきた他の薬剤を簡単に紹介する。コルヒチン、ブデソニド(吸入)、フルボキサミンは、複数の臨床試験で小さな効果が認められているが、これまで説明してきた薬剤より効果は低いため、優先して使用することはない。また、これらの薬剤は(デキサメタゾンを除いて)、COVID-19に対する保険適用がないことに注意が必要である。表7 軽症・中等症COVID-19に対するその他の薬剤の効果